蒲田のとある酒屋の奥に、ひっそりと佇む試飲スペースがあります。その名も「裏旭屋」です。

ただの角打ちではありません。ここは、全国の日本酒とつながれる特別な場所です。何度行っても新たな全国の日本酒を試飲でき、知らなかった銘柄との出会いや、思わぬ会話が生まれます。試飲が1杯200円──ただそれだけの話ではありません。
なぜ蒲田にこんな場所があるのでしょうか? 何が特別なのでしょうか? その答えは、店を営む旭屋の専務・瀬戸さんの想いや、この店を訪れた人々の物語の中にあります。
あなたも、裏旭屋の扉を開けてみませんか? きっと、新しいお酒との出会いが待っています。
隠れた試飲スポット!蒲田の奥で出会う“特別な一杯”
蒲田駅西口から歩いて数分。表向きは普通の酒屋「旭屋」ですが、その奥へ進むとまったく別世界が広がります。それが今回インタビューをさせていただいた「裏旭屋」です。
ここはただの試飲コーナーではありません。全国の銘酒を気軽に試せる素敵な場所です! 何度訪れても、新しい日本酒との出会いがあります。なんと、約3週間ごとにラインナップを変更しているそうです。日本酒好きにはたまらないですね。「常連さんも『次はどんな酒が入るの?』って楽しみにしてくれてます。」と瀬戸さんも語っています。

全国の日本酒といっても、何でもかんでも並んでいるわけではありません。瀬戸さんをはじめ、旭屋のスタッフさんが厳選した「本当に美味しい」「どこでも飲めるわけじゃない」お酒がラインナップに加わります。
だからこそ、裏旭屋の商品棚には「これ、初めて見た!」「この銘柄、東京で飲めるの!?」という驚きが詰まっているのです。
なんと、瀬戸さんが自らの足で全国を巡り、酒蔵と直接つながり仕入れているというのです。
瀬戸さんの厳選した銘酒がこれからも裏旭屋を進化させていきます!

裏旭屋の空間も魅力の一つです。
まるで酒蔵の貯蔵庫を彷彿とさせるデザイン。本来、もともと旭屋の倉庫だった空間を大幅なリフォームする予定でしたが、設計士の方の「この壁、酒蔵みたいで良いじゃないですか、そのまま活かしましょう!」という一言で、今の形になっています。無骨な壁のテイストと、シンプルながらも温かみのある木の雰囲気が、日本酒を味わう時間をより特別なものにしてくれます。
そしてそもそもなぜこのスペースが生まれたのでしょうか? 瀬戸さんの話を続けて聞いていきましょう。
試飲スペース誕生の裏側──「ぽんしゅ館」がヒントに
「コロナ禍でダメージを受け、このままじゃいけないっていう時に、今までやってないことに挑戦しようと思ったんです。」
飲食業界が大きく揺れ動いたあの時期、危機感を持ったのは旭屋も例外ではありませんでした。そんな時、瀬戸さんが思い出したのが、新潟・越後湯沢駅にある「ぽんしゅ館」でした。
「ぽんしゅ館」とは、新潟県内の酒造すべてのお酒を一杯分ずつ利き酒できるお酒ミュージアムです。
「ぽんしゅ館のちっちゃい版を蒲田でやったら、いいなぁと思って。」
それは単なる閃きでは終わらず、旭屋を成長させる今の「裏旭屋」の実現へと繋がっていきました。

「俺、実は酒があまり強くないし、元々旭屋の日本酒のラインナップもあまりなかった。そんな中でも、日本酒の魅力をもっと伝える、身近な場所を作りたいと思ってさ」
瀬戸さんご自身の経験を踏まえた想いがあると言います。
「ここがあれば、日本酒の楽しさを知ってもらえるし、旭屋の売上にもつながる。それに、飲食店の人たちがここで試して『うちでも日本酒を置いてみよう』ってなったら、地域活性にもなるし、日本酒を広めるきっかけにもなる。結局、誰も損しないんだよね。」
こうして、「たくさんの日本酒を楽しむ場」としての裏旭屋が誕生したのです。
「誰も損しない」試飲スペースの役割──酒と人をつなぐ場所
裏旭屋は日本酒を楽しむ一般のお客さんだけでなく、飲食店の関係者にとっても有意義な場所になっています。
「飲食店の人が、旭屋と取引がないのに『裏旭屋には来たことある』って言ってくれるんだよ。それが会話のきっかけで取引が始まることもあった」
実際にここで試飲した飲食店のオーナーが「これはうちで出したい!」と仕入れを決めることもあるそう。裏旭屋が単なる“お酒を飲む場所”ではなく、日本酒を広める架け橋として機能しているのです。

「旭屋の社員は仕事終わりにここで1杯飲めるんです。これも勉強なんですよね。」
裏旭屋は、旭屋の社員にとっても貴重な学びの場になっているようです。日本酒の知識を深めるために、スタッフ自身も試飲できる環境が整えられています。単にお酒を卸すだけではなく、料理との相性も踏まえて最適なお酒を提案できるようにソムリエの資格も取っている社員が多いそうです。
こうした環境があるからこそ、旭屋のスタッフはお酒への理解を深め、お客さんにより魅力的な提案ができるのです。
200円で広がる日本酒の世界──試飲で出会う一本
「200円の試飲で気に入って、1本買っていくお客さんが多いんですよ。」
裏旭屋の試飲価格は、1杯200円。全国の酒蔵と直接つながり、瀬戸さんが自らの足で開拓したこだわりの日本酒が、この価格で気軽に味わえるのです。
「本当に希少な日本酒もあって、普通ならボトルで買わないと飲めないものも多い。けど、まずは試してもらいたいって思うんですよ」
ここで出会える日本酒は、スーパーやコンビニでは手に入らないものばかり。酒屋の店頭に並んでいるとしても、いきなりボトルで購入するのはハードルが高い。でも、試飲なら200円で気軽に味わうことができる。これこそが裏旭屋の大きな魅力です。

「試飲をきっかけに日本酒の魅力を知ってほしいので、気軽に楽しめる価格にしました」
あくまで取材日(2025/2/18)時点での価格設定のため、仕入れ価格や状況によって今後変更となる可能性もありますが、裏旭屋の“気軽に日本酒を楽しんでほしい”という想いは変わりません。
瀬戸さんが語る蒲田の魅力──小宇宙のような街の飲み文化
瀬戸さんは蒲田の街をどう見ているのでしょうか? カマタノミは深掘って聞いてみました。
「蒲田はね、町自体が偉そうにしてないのがいいんだよね(笑) 気取らずに飲める、等身大でいられる街だと思う」
蒲田は、東京の中でも特に“肩肘張らずに楽しめる”街だと瀬戸さんは語ります。どんな人でも馴染める懐の深さがあります。
「高円寺や亀戸、赤羽とかも飲み屋街としては面白いけど、蒲田の良さは“ちょうどいい”ところにあるよね。気取ってないのにおしゃれな店もあるし、安い店から本格的な店まで選べる。こういう町ってありそうでなかなかないよね」
そして、その蒲田の飲み文化を支えるのは、蒲田の飲兵衛たちです。
「蒲田って、実はお酒の消費量がすごいんですよ。飲食店の人とも話すけど、みんな“とにかく酒がよく出る”って言う。」
そして瀬戸さんは、酒屋として蒲田を長く見てきた立場からも、蒲田の酒文化の豊かさを実感しているといいます。
「蒲田って、食の世界旅行ができる街だと思うんですよ。ベトナム料理、タイ料理、中華、とんかつ、カレー、何でもある。でも、それだけじゃなくて、どの店もちゃんと“お酒を楽しめる”店なんですよね。業態だってそう。スナックやカラオケバー、夜のお店もある。蒲田には全てがある、本当蒲田は小宇宙だよ」

カマタノミは、瀬戸さんに初めて蒲田で飲んだ日のことを聞いてみました。それは、瀬戸さんがまだ若かった頃。
「初めてお酒を飲みに行ったのは、線路沿いの“伝説の店”だったんですよね。」
当時、瀬戸さんの兄とその友人に連れられて、蒲田のOUR GANGへ(現在は閉店しており、GANG CAFEとして別のお店として営業中)。そこで初めての飲みを経験したと言います。お店にはネオンが飾っており、いかにも”大人の店”という印象があったそうです。酒に慣れていない当時の瀬戸さんは大いに酔っぱらい、気付けば上半身裸で大暴れ。それもその日の蒲田の町が包み込んでいたことでしょう。
未来の裏旭屋──もっと面白くなる“酒好きの秘密基地”
「俺、ここで商売できてるの、本当にラッキーだなって思うんですよ。」
瀬戸さんは、これまでの試みが形になってきたことを実感しながらも、まだまだやりたいことがあると語ります。
「今は日本酒が中心だけど、もっと幅を広げたい。最近は流行りのオレンジワインを設置してるけど、今後はウイスキーや焼酎、クラフトビールもやってみたいし、地域の飲食店と一緒に、もっと新しいことを仕掛けていけたらいいよね」
日本酒だけでなく、様々なお酒に触れる機会を作ることで、より多くの人にお酒の楽しさを届けたいという思いがあるそうです。
裏旭屋、まだまだ進化していきそうです!!

もし「日本酒は詳しくないけど、ちょっと興味がある」「新しいお酒を試してみたい」と思ったことがあるなら、ふらっと立ち寄ってみてはいかがでしょうか?! 200円の試飲なら、普段飲まないタイプの日本酒にもチャレンジしやすいし、思いかげない発見があるでしょう。
蒲田の街を歩いて、ちょっと寄り道するような感覚で訪れてみると、新しいお気に入りの一杯に出会えるかもしれません!
何か面白いことをやっている酒屋があるらしい!
そんな風に気になったら、一度足を運んでみてください。ここでの一杯が、新しい日本酒との出会いになるかもしれません。
蒲田で、あなたの“特別な一杯”が待っています。